【コラム】ギリシャが先進国に分類され、韓国と台湾が新興国に分類される不思議(WSJ日本版から引用)

今の国際制度を作った欧米諸国に有利な状況は、アジア諸国が実力を蓄え続けることで変わっていく。お金をやり取りする中央銀行システムは、今後どのようになるのだろうか。

引用開始
ニューヨーク】ギリシャは、機能不全に陥った財政の見本となり、過大に膨張した資産市場が破壊的な「調整」を経験すると世界的な競争力のない国はどうなってしまうのかを示す好例となった。
それとは対照的に、付加価値技術の分野でリードしてきた韓国と台湾は世界経済における列強となっている。両国の外貨準備高を合わせると7000億ドルにもなり、債務の国内総生産GDP)比を見ても韓国で40%、台湾で34%と無理がなく、両国のバランスシートはかなり健全な状態にある。

 そうしたこともあり、株価指数を算出している米MSCIが今頃になってようやくギリシャの市場分類を「先進国」から「新興国」に引き下げる方向で検討しており、韓国と台湾の「新興国」からの格上げが見送られたという先週の記事には少し驚かされた。

 経済開発の水準はMSCIが指数ランキングを決める上での1つの判定基準でしかなく、その国の経済規模、株式市場の流動性、外国投資家にとってのアクセスしやすさなども重要である。引き続き検討されるとはいえ、韓国や台湾の格上げが何度も見送られてきた背景には、こうした問題がある。またMSCIによると、ギリシャの市場分類が見直されたのは、債務危機やユーロ圏離脱の可能性に対する懸念というよりも、ギリシャ当局が他の先進国の基準に沿った規制を株式市場に設けることに幾度も失敗していることが大きいのだという。

 とはいえ、ウォール街関係者やあらゆるタイプの資産マネジャーたちによって繰り返されるこのように矛盾した格付けは、現実社会にも影響を及ぼすことになる。MSCIの国際株価指数のような時価総額加重平均方式を厳密に採用している金融機関は少ないが、その格付けはファンドへの流入金や投資業界の内部構造、さらには通貨にも重大な影響を与え続けるだろう。

 つまり、国際投資の株価指標が急速に変わりつつある世界経済の実態に追いつくにはまだ時間がかかるということだ。投資家が直面する最大の脅威は欧州の「先進国」に潜み、健全で長期的な成長の望みがアジアや南米の「新興国」に託されている現在、ポートフォリオの構成やトレードデスク編成の基礎となっている市場分類はかつてないほど独善的に思える。

 しかし、変化も起こっている。たとえば債券の投資家は、より一般的な時価加重(債券発行体による発行額が増えれば増えるほど比重が高まる)型ではなく、発行額よりも経済の規模を反映したGDP加重型インデックスというアイディアを受け入れ始めている。前者にはギリシャやアルゼンチンのように危険なほど債務が膨らんだ国により多くの資産配分が促されるという予想に反した効果があることに気付いたからだ。ところが投資の古い習慣は、人生のそれと同じでなかなか捨てられないもので、いまだに莫大な資金が時代遅れの市場分類に基づいて投資されている。

 ユーロ圏の統一――そして今では分裂の可能性――のせいで国の分類作業はより複雑化した。ユーロ加盟国には膨大な資金を有する近代的な第一世界の中央銀行という後ろ盾がある。そうした状態がずっと続くと考えていた人には――ユーロ圏を離脱する国が出るかもしれないと想像した投資家は最近までまれな存在だった――加盟国によって違った分類をするという概念がそもそも生まれづらいだろう。

 評価基準に基づいた「新興国」、あるいは「先進国」という分類が単純に古かったり、偏ったものであったりする可能性も高い。分類の評価基準として、証券に関する規制は、その国の生産性、技術的進歩、財政の健全性などと同様に重視されるべきなのだろうか。

 こうした分類には、知らぬ間に自己達成してしまう要因も存在する。ある国がひとたび「新興国」に分類されると、「先進国」に向かうのとは違うタイプの資金が集まるようになる。新興国は本質的に、好調なときは素早く投資し、危険な兆候が出始めるとすぐに逃避しがちな、リスク志向の投機的な投資家を引き付ける。これにより資本の逃避の可能性や市場のボラティリティの高さが増し、それが新興国やその通貨の特徴になるという悪循環を生んでしまっているのだ。

 ところが、立ち遅れてはいるものの、さまざまな国のリスクに対する投資家の考え方には大転換が起きている。いずれこれが「新興国」「先進国」という分類のやり直しにつながっていき、特定の通貨への資本の流出入にも変化が出てくるだろう。

 韓国と台湾が新興国を卒業して先進国になるときが来たら、韓国ウォンと台湾ドルの上昇にも弾みがつくはずである。
記者: Michael Casey
引用終了