焦点:サウジによる高水準原油生産、ロシアやイランには打撃に(REUTERSから引用)

ロシアとイランを苦しめるサウジアラビア。中東での駆け引きが強まる。

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[ロンドン 25日 ロイター] 1年6カ月ぶりに原油価格が1バレル90ドルを割り込んだものの、サウジアラビアが高水準の生産量を保つ現行政策を変更する兆しはない。

サウジ当局者と接触した湾岸・西側諸国の政府関係者によると、同国は90ドル以下の水準が数カ月間続いても許容できるという。ただ、この水準は、シリア情勢をめぐってサウジと対立しているイランやロシアに対しては打撃となる。

サウジは今年上半期に石油収入の黒字を達成し、その他の石油輸出国機構(OPEC)諸国の大半や、主要なOPEC非加盟国であるロシアと異なり、予算のバランスをとるため原油価格の一段の下落を必要としている。

ロイターがサウジ産原油の輸出平均価格を1バレル114ドルで計算したところによると、サウジは今年に入ってからこれまでに、原油輸出により1550億ドル強を稼いだもようだ。サウジ政府が今年の予算均衡を図るには1バレル約75─80ドルが必要とみられている。

湾岸産油国のある高官は「われわれがおおよそ現在の割合で原油生産を続ければ、市場で供給過剰になることはない」と指摘。「その上で、われわれは世界経済のため責任ある行動をとりたいと思っている」と述べた。

シリア情勢をめぐっては、アサド政権を擁護しているロシアをサウジが非難している。

ロシアはイランとともにシリアの主要な同盟国であり、大半の武器を供給している。ロシア、イラン両政府ともに、予算上の要求を満たすには原油1バレル当たり115ドルが必要だ。

米国の石油アナリスト、フィル・バレジャー氏は「ロシア経済は原油価格急落の影響を受けやすい」と説明。「サウジは生産量を日量1000万バレルに維持することで、そうした弱みに付け込むことができるかもしれない」と話す。
膨大な生産余力を残す唯一の産油国であるサウジについて、複数の業界関係者は、今後2カ月にわたり減産を実施するとみられるが、それは中国や米国の精製業者からの需要が落ち込むためだとしている。

西側のある外交官は「サウジは原油価格が90ドル以下で数カ月続いても大丈夫だと聞いている。たとえ需要低迷で減産せざるを得ないとしても、価格面ですぐにOPEC救済に乗り出すとの印象をわれわれに与えることはないだろう」と語った。

原油価格は3月の高値128ドルから下落。背景には世界経済の先行きが弱含んだこともあるが、サウジが主要な石油消費国からの圧力を受け、生産量を30年ぶりの高水準となる日量1000万バレルに引き上げたことも要因だ。

これが核開発問題に関連した制裁措置に伴うイランの生産減少分を穴埋めしたことで、イラン政府が非難しただけでなく、原油高を望むアルジェリアイラクベネズエラといったその他のOPEC加盟国からも批判する声が上がっている。

OPECは加盟国全体の生産量目標を日量3000万バレルに設定。サウジは目標を超過した生産量をめぐり、大部分の責任があるとみられている。

OPECの関係閣僚は6月中旬に開催した総会で全体の生産量目標を順守することを確認。加盟12カ国による実際の生産量である日量3150万バレルからの減産を示唆した。そのためにはサウジの減産が必要だが、同国がそうした行動に出る可能性は低いとみられる。

<強まる「石油の中銀」機能>

OPEC総会に出席した複数の関係者によると、サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相は他国の関係閣僚に対し、各国が減産にどういった貢献ができるか尋ねていたという。
ある関係者は「同相は一人ひとりに話しかけ、そこには沈黙があった。誰も自主的に減産しようとは思わなかった」と話す。サウジが減産する可能性について尋ねると、この関係者は「ない」とだけ答えた。

加盟国別の生産枠で合意することができなかったため、OPECには各国の生産量を規制することはできない。

英エネルギー調査機関、センター・フォー・グローバル・エネルギー・スタディーズ(CGES)のレオ・ドロラス氏は「加盟国の大半は投資が不足しており、余剰生産能力もほとんどない。サウジは『石油の中央銀行』となっており、そうした位置付けはかつてないほど強まっている。これが現実だ」と解説する。

業界関係者によると、サウジ政府は6月の原油輸出量を前月から日量で約15万バレル増加させた。5月に日量980万バレルに落ち込んでいた生産量は、安定した国内需要を考慮すれば再び1000万バレル近くに回復しそうだ。

ただ、精製工場のメンテナンスなどにより米中で需要が減少するため、7月と8月には日量約950万バレルまで減少する可能性がある。

OPEC湾岸加盟国のある当局者は「湾岸各国は、今年上半期に原油価格が100ドルを超えていた際に利益を稼いでいたため、90ドルを割り込んだ価格でも耐えることができる」と指摘。「そのため、原油価格が90ドルを下回ったからというだけで、湾岸各国がすぐに供給を絞るということを期待してはならない」と述べた。

CGESのドロラス氏によると、OPECが生産量を現在の水準である日量約3150万バレルで維持すれば、原油価格は第4・四半期に1バレル平均74ドルに、2013年第1・四半期には同59ドルに落ち込む可能性があるという。

( Richard Mably記者;翻訳 川上健一;編集 加藤京子)
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