総選挙を控え反政権ムードが高まるギリシャ 緊縮財政推進に黄信号も(WSJ日本版から引用)

国民の70%がユーロに留まっていたいと考えているのが事実であったとしても、国の経済を活性化させるためには、既得権者を切り捨て、再出発するしかないのだろう。それができるのか。

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アテネ】数週間前に欧州連合EU)と厳しい第2次救済条件で合意したギリシャは今、総選挙を控えて政治的に分裂しており、ユーロ圏に留まるために必要な経済的犠牲を払えなくなる危険性が増している。

 4月もしくは5月に実施が見込まれる総選挙は、EUおよび国際通貨基金IMF)からの援助を得るために必要な緊縮財政を受け入れた今の政治家に対する国民の反乱といった様相を呈してきている。ますます多くのギリシャ国民は、いま主流を行く政治家らを、ギリシャを負債の落とし穴に陥れ、そこから這い出そうとする間に同国を貧困に導くものとしてとらえている。

その結果、欧州諸国に対して今夏までに再度歳出を削減することを約束したギリシャの主要政党は国民の支持を得るのに苦しんでいる。

 最近の世論調査によると、有権者の半数はソビエト式の共産党や移民排斥主義のネオナチといった過激な反体制グループに投票すると答えている。そうなればたとえ現政権政党が権力にしがみついていたとしても政情不安を招き、ひいては支援の条件として求められている大規模な歳出カットと財政再建に取り組む能力を揺るがしかねないことになる。

 夜間学校のドイツ語教師(32歳)は「ほとんどの人は連立与党にはもう政権を任せられないと思っている」と指摘する。新民主主義党の支持者だった同教師はもう同党には投票しないという。

 また彼のドイツ語クラスは「かつてないほど盛況」だという。「多くの人が移住したいと考えており、言葉を学習している」からだ。

 経済崩壊の兆候は反政府運動の傷跡が残るアテネ中心部により明確に現れている。閉められた店の前で毛布にくるまるホームレスの数が増えているのだ。暴徒に焼かれた建物からは炭の匂いが漂う。かつては賑わっていた大通りの壊れた大理石のファサードは「貸家」のサインで飾られている。乗客を待つタクシーが長い列を作る。

 総選挙は2009年にギリシャ債務危機に陥って以来初めて、国民が自分たちの統治者を選ぶ機会となる。昨秋以来、同国政府は、保守派の新民主主義党(ND)と中道左派全ギリシャ社会主義運動(Pasok)の連立与党の支持を受けた、非公選のテクノクラート首相、ルーカス・パパデモス氏によって率いられてきた。 

 パパデモス氏の任務はEUIMFからの融資パッケージ1380億ユーロ(約15兆3000億円)を確保することだ。政府報道官は26日、選挙は4月29日か5月6日、もしくは5月13日に実施されると述べた。

 複数の世論調査によると、2009年の選挙で全投票数の75%程度を獲得していた連立政権の支持率は今や35〜40%に落ち込んだ。政党別ではNDの支持率が25%付近、Pasokの支持率は15%かそれ以下にまで下がっている。

 ギリシャ人労働者の5人に1人以上は失業中で、そのうちの半数は25歳未満だ。ホームレス、自己破産、犯罪、自殺、不健康による死亡率がいずれも上昇している。教育を受けた若者はいま、荷物をまとめている。

 独立記念日(25日)のパレードの最中には国民の怒りが暴力的な抗議に発展した。クレタ島の中心地イラクリオンでは反緊縮財政を訴えるデモ参加者と警官が衝突、パレードが中止された。同様の事件が国中で報告され、アテネでは政府高官らにデモ隊を近づけないよう、数千人もの警官が町の中心を封鎖した。

 国民の支持率低下にもかかわらず、NDとPasokが団結すれば再び次の政権を担う可能性があるとする楽観的な見方もある。ギリシャの選挙システムでは最大政党――NDの可能性が高い――に全体で300議席のうち50のボーナス議席が与えられるからだ。

 しかし両政党の敵対関係と、過半数ぎりぎりの状況が予想されるなかでは、連立政権が不安定になり、党内造反の影響を受けやすくなる。ひいては国民の支持を得られずに、過激な反対運動に直面する事態になりかねない。

 ギリシャは緊縮財政を実行できる自信を欠いているにもかかわらず――新しい支援策が決まっても、60%以上の国民がギリシャは破産に向かっているとみている――現実的な代替案もない。国民の70%以上がユーロ圏に留まっていたいと考えている。

 多くのエコノミストや政治アナリストらはユーロ離脱の可能性は低いとみている。仮にギリシャが離脱すれば、ポルトガルやスペイン、イタリアといった潜在的にリスクがあると考えられている国から資金逃避が起こりかねず、欧州全域の金融パニックにつながる可能性がある。

 ドイツ帝国主義の表れだとして支援策を拒絶する、過激な緊縮財政反対論者でさえ、代替案の提示ができないでいる。

記者: Alkman Granitsas and Marcus Walker
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