【オピニオン】日本の対中姿勢に変化、問われる野田首相の手腕(WSJ日本版から引用)

日本の政治を官僚やマスコミを使い、また一部政治家を使い動かしているのが、アメリカの官僚(軍産複合体)のようだ。これでその様子がもっと露呈すれば、そのうち誰もが知るところとなる。その時点で、アメリカの官僚による日本支配は終焉を迎えるのではないか。その時こそ、アメリカの産業界と政治の中枢と日本の産業界と政治の中枢が表でもつながるのではないか。日本の中枢は、平安貴族の時代からあまり前面に出ずに活動することが多いようだ。江戸時代を過ぎ、現在となっては、やはり中枢の人たちも一部前面に出てくるしかないであろう。

引用開始
 日本の絶望的な国内状況のなかで、先週、野田佳彦氏は首相となった。3月11日の地震津波原発事故の3つの惨事で、日本の経済は疲弊している。野田氏は5年間で6人目の首相ということで、政治制度もまひしているようだ。社会全体には無気力感が漂っている。野田氏の未来は、前任者らと同様、こういった気の遠くなるような困難にいかにうまく対処できるかにかかっている。
とはいえ、国内政策と経済政策だけが野田氏の専門というわけではない。最初の数日間、野田氏の外交姿勢と中国に関する批判にも注目が集まった。野田氏は最近、雑誌『文芸春秋』への寄稿のなかで、中国の対外姿勢を「強圧的」と指摘、中国の急速な軍拡は「日本のみならず、地域における最大の懸念材料」になっていると述べた。また、新外相に就任した玄葉光一郎氏も、グローバルな政治・経済政策について、中国は公平に物事を進めるべきとの見解を示し、波風を立てている。

 こうした姿勢は、民主党がこれまで進めてきた、また、かつて自民党が取ってきた中国を取り込もうとする政策とは一線を画すものだ。1980年代から中国経済の躍進が始まって以来、日本は、中国との関係を深めつつ、米国とは強い同盟関係を維持するという路線を慎重に歩んできた。日本政府も、米政府と同じく、中国の軍事力強化と政治的影響力の増大をけん制しながら、経済成長の恩恵にあずかろうとしたのだ。

 日本政府の姿勢が変化した明らかな理由は、昨年の日中関係の緊張である。両国関係に最も影響を与えたのは、昨年秋の尖閣諸島をめぐる対立だった。この事件では、双方が領有権を主張する海域で日本の海上保安庁が中国漁船の船長を逮捕。外交関係がほぼ決裂した状態となり、報復合戦が数週間続いた。アジア最強の軍事力に向けて着々と歩を進める中国は、第5世代ステルス戦闘機を公表し、初の空母を就役させたことで、日本の反発を招いている。

 かつて民主党は、対中関係を劇的に改善させるとみられていた。党創設の主要メンバーの1人で、今は党員資格停止処分を受けている小沢一郎氏は、数百名の大代表団を率いて訪中し、日中関係の改善を宣言した。民主党初代首相の鳩山由紀夫氏も、日本、中国、韓国が中心となる「東アジア共同体」構想を提起した。こうした努力は、中国が日本にとって最も重要な貿易相手であるということを考えれば、自然であり、将来を見据えたものと思われた。

 しかし今、日本でそうした中国に関する楽観論は聞かれない。日本人は、衝突のような事態や対立的な関係は望んでいない。しかし、中国の望みを無理に受け入れようという姿勢ではない。米国の姿勢の変化に呼応するかのように、日本でも中国に対する悲観論が高まっている。中国が南シナ海での領有権を繰り返し主張したり、中国の小型船団がこれ見よがしに日本の諸島間を航行したりと、日本政府の懸念は強まる一方だ。日本の防衛政策立案者は、「南西の壁」、つまり九州から台湾へと続く諸島の防衛に注力すべきと主張し始めた。日本の政治家も、オーストラリアやインドなどとの関係強化を検討している。

 一方、日本の安全保障の根幹は、引き続き日米同盟である。野田氏は、日米同盟の強い支持者であると考えられており、国際紛争を解決する手段として武力を保持する権利を否定する、評判の芳しくない憲法9条を改正すべきといった趣旨の発言も聞かれる。

 こうした野田氏の姿勢は、「A級戦犯戦争犯罪人ではない」との物議を醸す発言もあって、中国の反発を招いた。中国の新聞の社説は、野田氏に靖国神社を参拝しないよう警告を発し、尖閣諸島に関する中国の主張を受け入れるよう求めた。中国政府は、野田氏の態度について、ここ2年の間に在日米軍基地問題をめぐってぎくしゃくしている日米同盟の絆を再び強める可能性があるとして、懸念しているようだ。

 これらすべては、日中の新たな困難な局面入りを意味する。国内問題で疲弊する日本は、アジアにおける日本の影響力を低下させる中国の動きや東アジア水域における中国の行動に対して、警戒感を一層強めている。尖閣諸島事件で高まった日中間の対立は沈静化するだろうが、水面下の駆け引きと互いの猜疑心は消えないだろう。

 野田氏にとって、これは頭痛の種だ。対中関係を誤れば、野党だけでなく民主党内からも批判を浴びることになる。野田氏と玄葉氏は、環太平洋連携協定(TPP)への参加を支持していると思われるものの、日本にはできるだけ多くの貿易パートナーが必要であり、やはり中国は、今後数十年、日本経済にとって欠かせない存在だろう。

 さらに言えば、野田氏に日本をこれ以上孤立させる余裕はない。中国だけでなく、韓国も日本の戦犯に関する彼の見解について抗議した。一方、米政府は、めまぐるしく変わる日本のリーダーへの対応にうんざりし、普天間基地移設問題の推移に苛立ちを強めている。野田氏は、これらすべての問題に細心の注意を払い、バランスを取らねばならない。そうでなければ、日本を近隣国と友人からさらに遠ざけるという危険を彼は冒すことになる。

(マイケル・オースリン氏はアメリカン・エンタープライズ研究所の日本部長)
引用終了