「黒田日銀」に現実の壁、行きはよいよい帰りは怖い−水野元委員(Bloomberg.co.jpから引用)

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3月7日(ブルームバーグ):元日本銀行審議委員の水野温氏クレディ・スイス証券取締役副会長は、次期日銀総裁候補の黒田東彦アジア開発銀行総裁が「やれることは何でもやる」と表明していることについて、「今は決意表明の段階だが、実践の段階に入ればいずれ現実の壁に直面するだろう」とした上で、「出口の議論をせずさらに踏み込んでいくのは、『行きはよいよい、帰りは怖い』という世界だ」と述べた。

水野氏は6日のインタビューで、白川方明総裁の金融政策について「政治の混乱に振り回された5年間だった。民主党政権下の混乱、そしてポピュリズム大衆迎合主義)色の強い安倍政権の誕生で、すべての責任を押し付けられてしまった」と語る。しかし、白川日銀は「リーマンショック後の金融システムの安定という点で、非常に大きな成果を出しており、その実績はすべて否定されるべきものではない」と述べた。

日銀は7日、白川総裁にとって最後となる金融政策決定会合を開き、金融政策運営の現状維持を決定した。4月の次回会合からは、「黒田日銀」が金融政策のレジームチェンジ(体制転換)に挑む。

水野氏は黒田氏と岩田規久男氏の正副総裁候補について「いろいろな資産を買うべきだとか、長い国債を買うべきだという主張だが、すべての政策にはコストが伴う。コストを無視して政策を行うことに対し、政策委員会の合意形成ができるかどうか」と疑問を呈した。

出口考えないのは心配

黒田氏は4日の衆院での所信聴取で、白川総裁の下での金融政策について「既に決めた金融緩和では明らかに不十分」と断言するとともに、「大胆な金融緩和をすることが第一義的に必要だ」と述べ、出口政策を云々するのは時期尚早という見方を示した。

水野氏は「黒田新体制は白川体制を否定することから始めると思うが、残された政策手段は、白川総裁が総裁になった5年前よりずっと少なく、今後やれることも、白川体制の延長線でしかないことに気づくだろう」と言明。「どんな政策にもコストとベネフィットがある。それを理解してやらないと、出口を考えずに前に進んでいくというのは、市場参加者としては心配だ」と語る。

さらに、「黒田、岩田両氏に不安を覚えるのは、理論と実践のギャップが大きいことだ。日銀は資産買い入れ等基金の残高を今年末までに101兆円、来年末までに111兆円に拡大するが、これすら、当座預金残高が90兆−100兆円に達する中で金融機関が本当に当座預金に資金を積んでくれるのか、という問題がある」と指摘。また、日銀のオペに必要な「適格担保が不足する金融機関が増えてくる可能性がある」という。

大胆な金融政策は財政政策と同義

黒田氏は「日銀は既に社債や指数連動型上場投資信託ETF)を買っているが、そうしたものを幅広く検討していく必要がある。量的にも質的にもさらなる緩和が必要だ」と語った。岩田氏は5日の所信聴取で、日銀券と日銀当座預金などの合計であるマネタリーベースを大量に増やすとともに、資産買い入れ等基金で残存3年以内に限定している長期国債について「5年以上を買っていく」と表明した。

水野氏は「リスク資産をたくさん購入すれば、日銀のバランスシートをき損する可能性もある。そうなると財政資金で穴埋めしなければならないが、財務省は消極的だ。安倍首相が唱える大胆な金融政策、異次元の金融緩和をやろうとすれば、結果的にそれは財政政策に近づいていくことを意味しており、その部分の議論が欠けている」と指摘する。

さらに、「日銀がどんどん長期国債を買っていけば、流通市場から買ったとしても、事実上のマネタイゼーションと批判される可能性がある。金融政策の財政政策化がさらに進行すると、財政政策の規律が緩み、日本国債の信用力が低下し、格付けも下がってくる。バランスシート拡大政策には、自ずと量的な制約がある」と語る。

リーマンショック後の対応は評価

水野氏は「債券市場では日銀の存在感が大きくなり過ぎ、財政規律の弛緩に警告を発する市場機能が落ちている。バランスシート政策をギリギリまで追求していくと、最後は金融システムがおかしくなる」と指摘。最終的に行きつく先は、債券市場のバブルとその崩壊だとした上で、「出口の議論をせず、さらに踏み込んでいくのは、『行きはよいよい、帰りは怖い』という世界だ」と警告する。  

水野氏は一方で、白川日銀について「リーマンショック後の対応は海外からも高く評価されている。日本は金融システムの安定を維持でき、世界的な金融危機から日本をうまく隔離できた」と指摘。2010年10月に導入した包括的な金融緩和策についても「信用緩和政策と量的緩和政策のハイブリッドで、非常に強い枠組みだった」と評価する。

しかし、市場との対話の面で、「金融政策でできることは限られており、時間を買う政策に過ぎない」という白川総裁の哲学が前面に出過ぎて、「できることは何でもやる」という姿勢を打ち出したバーナンキ米連邦準備制度理事会FRB)議長に、結果的に軍配が上がったと指摘。「もう少しうまいやり方があったのではないかと思うが、哲学に反することはしたくないという葛藤があったのではないか」としている。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 日高正裕 mhidaka@bloomberg.net;東京 藤岡 徹 tfujioka1@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Paul Panckhurst ppanckhurst@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net
更新日時: 2013/03/07 14:24 JST
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