ザ・特集:維新政治塾 橋下チルドレン“生産現場”を訪問(毎日jpから引用)

今年の初夏に選挙があれば、関西地区を中心に当選者を増やすであろう維新の会。結局、政治にお金を出せる人がバックにいないと主力にはなれないのだろう。維新の会のバックはなんだろう。

引用開始
次期衆院選の台風の目とされる“橋下塾”が動き出した。「大阪維新の会」代表の橋下徹大阪市長を塾長とする「維新政治塾」の開講式には、全国から続々と受講者たちがやってきた。彼らの中から日本を救う政治家は出るのか。大阪に足を運んだ。【江畑佳明】

 ◇「大ファン」の派遣社員は国政志望/私語なし、不動 緊張感ぴーん/君が代の口元チェックには賛否

 「来るべき大戦(おおいくさ)に備えましょう」。塾長の橋下市長が、高らかに呼びかけて、あいさつを終えると大きな拍手が起きた。

 「次期衆院選」という言葉は避けたものの、見定めた照準は明らか。この日集まったのは約2000人。論文審査を通り、受講料3万円を納めた人たちだ。弁護士や医師、サラリーマン、主婦とさまざまで、9割が男性のようだ。

 橋下市長は掲げられた日の丸に一礼して、熱っぽく語り出した。「決定できる民主政治を」「自立した個人、自立した地方自治体を」。フレーズが短く、分かりやすい。思わず引き込まれる。約30分間、会場も全く退屈していない様子だ。「ワンフレーズポリティクス」と言われた小泉純一郎元首相の、郵政民営化総選挙の口調を思い出す。小泉元首相のときの国民がそうだったように、今回の受講者も橋下市長の主張に心酔しているのか。聞いてみた。

 「もちろん、国政志望ですよ」。そう語ったのは、大阪市内に住む派遣社員の女性(33)。勝負服っぽい黒色のスーツが気合を感じさせる。「橋下さんの大ファン」という。いったい、どこにひかれるのか。「ちょっと口は悪いけど、やるべきことはやるタイプだから」

 現在、会社の事務を担当しているが立場は不安定だ。「成功した人との差が大きく、年金問題など将来の不安もある。自分で何とか変えたいと思ったら、議席をとって国政に出ないといけない。頑張りますよ」。かなり真剣である。

 神奈川県から来た会社員の男性(25)も「年金改革など行ってはいるが、安心したシステムにはなっていない。私はまだ若いですが、政治や社会に閉塞(へいそく)感を感じていますから」。

 政治家を志さない受講者もいた。兵庫県尼崎市の男性(51)。「これまで国の経済対策がいくつもありましたが、効果をほとんど感じたことがない。なぜでしょうか」とぽつり。応募は、この疑問を解くための勉強をするためだ。

 住宅のクロス張りの会社を経営するが、ここ数年、売り上げは減少傾向だ。2人の子どもは大学生になる。「一番お金がかかる時なんですが」とため息をついた。橋下市長の「政策の問題ではない。日本の仕組みを変えねばならない時が来ている」という言葉が響いたという。思いは切実だ。

 北海道蘭越町(らんこしちょう)の町議、琵琶博之さん(40)は、大阪府出身。会社員生活の後、IT関連会社を設立した。同町にはスノーボードなどの趣味を充実させたスローライフを求めて移住した。町議になってまだ11カ月。応募したのは「活性化のアイデアを見つけて、志のある参加者とネットワークを作りたい」からだ。

 蘭越町は北海道の南西部にあり、人口約5300人。毎年約100人ずつ減少している。しかし上質の雪はスキーに最高だし、温泉もあって水もおいしい。「この資源を生かして何とか仕事を作らないと、若者がいなくなってしまう」。危機感は強い。

 議会では最年少。情報公開の拡大を求めたりして、ベテラン議員からの風当たりも強いという。「住民の陳情を受けて行政に働きかけるのが町議の大きな仕事だったけれど、それでは過疎化は止まらない。もうそんな時代じゃない」と熱く語った。

 受講生は多種多様で、応募動機もそれぞれ異なる。だが、共通して、現状を憂え、何かをしたいという真面目さや実直さを持っているようだ。

橋下市長はなぜ、彼らをひきつけるのか。コラムニストの天野祐吉さんに聞いた。天野さんは、「こんな政治不信の中で2000人も集まるなんて、日本も捨てたものじゃないですね」としたうえで、「多くの人が、政治や社会に主張したいことがあるのに、うまく言葉にできないもどかしさを抱いている。橋下さんはそれを分かりやすく言葉にしてくれるからでしょう」と指摘する。確かにそうだ、と思う。だが、何だろう、何か妙な感じがする。

 会場はスーツ姿の男性が多く入社式みたいだ、と一瞬思ったが、壮年や初老の人もたくさんいて雰囲気が違う。かといって選挙の決起集会のような興奮はなく、張り詰めた緊張感というか、ほとんど私語もなく、話を聞く姿勢も動かない。見たことがない光景なのだ。

 壇上近くには、日の丸が掲揚されている。司会者に促され、受講生は起立して君が代を斉唱。橋下市長が推進し、論議を呼んだ公立学校の教員に斉唱を義務づけた条例が頭をよぎる。これも橋下スタイルなのか。「まず価値観を共有しましょう。合わない場合は、去って行ってください」との橋下市長の言葉に、少しどきりとした。

 最近も、大阪の高校の校長が、卒業式で教員の口元をチェックさせていたと話題になった。記者が見渡した限りでは、さすがに受講生の君が代口元チェックはないようだが、受講生はどう考えているのだろう。

 先ほどの神奈川県在住の会社員の男性は「自ら公務員になった以上、素直に歌うのが筋では。(思想良心の自由を侵害する)違憲判決も出ていませんし。さすがにチェックしすぎると反感を持たれるでしょうが」とさらり。

 一方で、東京からという女性は「一つの考えを押しつけることは、橋下さんが目指す『自立した個人』と矛盾するのでは」と違和感を示す。「今日の起立斉唱は、維新の会へ忠誠を誓わせる『踏み絵』に思えた」と不快感を示した。応募の動機を「橋下さんがどういう考えを持っているのかを確かめに来たんです」と語る彼女は、なんだか新鮮だった。

 そういえば、天野さんはこうも言っていた。「数の力を重視する橋下さんの考えはどうかと思いますね。たとえ次の選挙で勝利しても、議員の質が伴わない『橋下チルドレン』が大量に生まれるだけ。小泉さん、小沢(一郎)さんの繰り返しで、さらに政治への失望感が広がってしまう。質を重視してほしい」

 「維新塾」は最終的に衆院選候補者を300人程度に絞るという。自分の考えを持たない無能な議員が増殖する事態は、ご免こうむりたい。

==============

 「ザ・特集」は今回で終わります。

毎日新聞 2012年3月29日 東京朝刊
引用終了