【バロンズ】証拠金引き上げで一段と揺らぐ金の安全神話(WSJ日本版から引用)

今年の春に、銀が取引の証拠金を数回引き上げられ値下がりしたように、金も値下がりする可能性が高まってきた。しかし、今のところ現物への高い需要が世界的に続いている。さて、どのような綱引きになるのだろう。

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株式市場のボラティリティーが高まるなか、不確実な相場からの資金の避難先として、また安全な投資先として金への注目が高まっている。そのため、金の先物市場自体がいかにボラティリティーが高く、不透明であるかということを忘れがちだ。しかも、先週行われた規制強化によって不確実性がさらに増す可能性がある。

100トロイオンス単位で取引されるニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物市場で、取引の中心となる12月物は今月11%も急騰し、一時過去最高値となる1トロイオンス=1817.60ドルに達した。この背景には、世界中の投資家が株式・債券市場の乱高下を警戒し、急きょ資金保護に動き出したことがある。12月物は12日、1742.60ドルで取引を終えた。

 このところ投資家が金の保有を増やしている基本的な理由は、欧米の高いソブリン債務の水準や世界的な景気低迷への警戒感、新興国市場のインフレ進行だ。だが、これらの状況には依然変化がみられず、資金が金市場へと向かう動きは向こう数年続く公算が大きい。

 米連邦準備理事会(FRB)は先週市場に対して、景気回復の遅れは2013年まで続くと告げた。それまで実質ゼロ金利政策を継続することを約束し、米国の経済成長予測を下方修正した。この決定により、債券保有で得られる利益は当面限定されることになり、利付き資産よりも金の優位が高まることになった。

 だが、金市場に資金が流入すればするほど、金価格の変動性は高まることになる。金先物市場は株や為替、国債市場ほど流動性が高くないためだ。

 COMEXの金先物出来高は16日、43万7250枚となり、過去最高を更新した。かなり驚異的な数字にみえるかもしれないが、これはわずか6分間ほどで取引される米アップルの株式数と同程度だ。同日のアップル株の出来高は3870万株だった。

 金は現在1800ドル前後の水準で取引されているため、多くの投資家は金市場への参加に不安を感じている。だが、避難先となるような「低リスク」資産はほとんどない。為替市場は政府の過剰債務水準と密接に連動しているため、以前から安全性が疑問視されていた。

 それに加え、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が5日、米国債の格付けを最上級のトリプルA「AAA」からダブルAプラス「AA+」に引き下げたことで、投資家の不安はさらに増長し、どのような資産であっても長期保有することに慎重になっている。

 こうした不透明性はいずれ、避難先を求める動きと市場の修正を危惧する動きとの綱引きに発展する可能性がある。すなわち、金の購入に押し寄せる投資家がいる一方で、金高騰が一服する前に手持ちの金を売って利益を確定しようとする投資家が現れる可能性がある。

 パイオニアフューチャーズの上級取引アナリスト、スコット・メイヤーズ氏は「今後数週間でボラティリティーは極端かつ異常な高まりをみせるだろう。その要因は世界的な警戒感にほかならない」との予測を示した。

 こうした状況を懸念し、COMEXの親会社であるCMEグループは先週、金の売買に必要な証拠金を引き上げた。11日の取引終了時から実施されたこの新規制では、金先物について、ポジションを開設する際は7425ドルの最低証拠金(当初証拠金)を、ポジションを保持する際は5500ドルの維持証拠金を預け入れることが要求される。

 今後も証拠金がたびたび引き上げられることになれば、金の安全性が脅かされかねない。今年に入り、銀先物の証拠金が引き上げられたとき、相場はたちまち反落した。要は、金はもはや以前ほど確実な投資先ではないということだ。

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記者: Tatyana Shumsky
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