焦点:ドイツで反ユーロ政党が旗揚げ、9月選挙で「台風の目」か(REUTERSから引用)

この秋ドイツがどうまとまるのだろうか。

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[ベルリン 14日 ロイター] ドイツで結成された反ユーロを掲げる新政党「ドイツのための選択肢(AfD)」。既存政治勢力はポピュリスト集団だと意に介さないそぶりを見せるが、14日に開かれた初の党大会には約1500人が出席するなど、結成後わずか数カ月で一定の有権者の共感を呼んでおり、9月の総選挙では台風の目になる可能性もある。

AfDは数カ月前、学者やジャーナリスト、実業家らが中心となって結成。ベルリン中心部にあるインターコンチネンタルホテルでこの日開催された第1回党大会では、指導部を選出し、党の綱領を採択した。同党が最優先課題とするのは、ユーロからの離脱と旧通貨マルクの再導入だ。

同党には経験豊富な政治家はほとんどおらず、初の党大会も、すべてがスムーズに進行するというわけにはいかなかった。党創設者であるハンブルク大学のベルント・ルッケ教授の演説は、ドイツ国旗を振る男性に中断させられるなどハプニングもあった。

ただ、大きな会場は高揚感に包まれ、スーツ姿の中高年が目立つ出席者からは、友人や家族の間で同党への関心がいかに高まっているかに驚かされるとの声も相次いだ。

「非常に大きな可能性がある」。こう語るのは、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)から1カ月前にAfD入りしたアレクサンダー・ゴーランドさん。半世紀にわたってCDU党員だったというゴーランドさんは「過去数週間で明らかになったのは、ユーロ圏救済に関しては特に、大政党は耳を貸してくれないと多くの人が感じているということだ」と述べた。

<数十年来のタブー>

フランスの国民戦線(FN)など欧州で見られる他の反ユーロ政党とAfDが一線を画すのは、国家主義や移民排斥を掲げていないこと。同党は、ユーロ圏の「秩序ある」分解こそがドイツにとって最善の利益であると同時に、景気後退や高失業率にあえぐ南欧諸国を助けることにもなると主張する。

党大会出席者が最も不満を示すのは、ユーロ圏債務危機が3年前に顕在化して以降、ギリシャポルトガルアイルランド、スペイン、キプロスなどの救済に数十億ユーロを注ぎ込むことにつながった政策について、国内の大政党間で議論が不足していたということ。
ベルリン郊外でガソリンスタンドを経営するヘンリー・ストラセンさん(47)は、「この政党はドイツにチャンスを与える。過去何十年もタブーだったテーマに切り込んでいる」とし、「AfDが出てくる前は選択肢がなく、非民主的だった」と語る。ストラセンさんは以前は、メルケル首相のCDUが連立を組む自由民主党(FDP)を支持していたという。

不動産業を営むトーマス・ラングさん(62)も、FDPに見切りをつけてAfDに参加する1人。デュッセルドルフから党大会に駆け付けたラングさんは、南欧諸国は「ユーロのわなにはまっている」と同情を示し、「彼らは通貨切り下げができず、ドイツへの怒りを強めている。私は欧州を支持するが、こういう種類の欧州は支持できない」と話した。

結党わずか数カ月で、AfDの党員数は現在7500人以上。同党スポークスマンによると、メルケル首相が連立を組む中道右派政党からの加入者は、中道左派で野党の社会民主党(SPD)と緑の党からに比べ3倍に上るという。

各種の世論調査では、有権者の4人に1人がAfDの支持を検討していることが明らかになっている。しかし、専門家の多くは、9月総選挙で議席獲得の条件となる5%以上の得票は難しいと指摘。ボン大学政治学者フランク・デッカー氏は「問題は、この政党に共感する有権者が実際に投票するかだ」と語った。

海賊党の教訓>

AfDが選挙で躍進できるかどうかは、複数の要因に左右されるだろう。新党が選挙に参加するには、各州で賛同者2000人の署名が必要となる。

ナチスの苦い経験があるドイツでは、政治の場で国家主義を振りかざせば冷ややかな目で見られるだけであり、党の主張を曇らせるような過激分子は排除するよう気を付けておかなくてはならない。

党大会の会場となったインターコンチネンタルホテルの前では、極右に人気の週刊紙「ユンゲ・フライハイト(若き自由)」のコピーを配る人もいた。
AfDが9月の選挙でチャンスを得るには、シングルイシュー政党から脱皮しなくてはならないという意見もある。14日採択された党綱領には、教育やエネルギー問題などへの提言も盛り込まれた。

AfDにとって教訓となりそうなのが、昨年の地方選挙で既成政党に対する不満票の受け皿となった新興政党の海賊党だ。海賊党に対する有権者の支持は、内紛や組織内の混乱により、過去数カ月で急速にしぼんだ。

CDUのベテラン議員ウォルフガング・ボスバッハ氏は「この政党は過大評価も過小評価もすべきではない」と指摘。ユーロ圏救済策の支持を拒んで党内で孤立したという同氏だが、AfDへの乗り換えは考えていないとした上で、「5%以上得票できるとは思わない。たった5カ月で全国的に組織するのは非常に難しい。ただ有権者がこの政党に流れれば、CDUにとってかなりの打撃になる可能性がある」と語った。

皮肉なのは、AfDが躍進して中道右派票を奪えば、メルケル首相がSPDとの「大連立」を余儀なくされる可能性も高くなるということだ。大連立政権になれば、ユーロ圏救済をさらに支持するようになるとみられる。

メルケル首相は「もしユーロが失敗すれば、欧州が失敗に終わる」と公言する。AfD創設者のルッケ氏は党大会でそのフレーズを引き合いに出し、「もしユーロが失敗しても、欧州は失敗に終わらない。もしユーロが失敗すれば、アンゲラ・メルケルが失敗に終わるのだ」と聴衆に語りかけた。

(原文:Noah Barkin、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)
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