アルジェリア人質事件で自衛隊法改正が論議に (WSJ日本版から引用)

普通の国になるのであれば、アメリカとの同盟関係は重要だが、盲目的に従うのは終わりにしなければならない。

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【東京】アルジェリア南東部の天然ガス関連施設で起きたイスラム武装勢力によるテロ攻撃は、現時点で少なくとも日本人7人が死亡、過去数十年間でテロによる日本の人的被害が最大級に膨らむ可能性があり、国の防衛・安全保障能力の拡大を求める声が高まりそうだ。

 安倍晋三首相は21日、首相官邸で開いたアルジェリア人質事件対策本部の会合で日揮の社員のうち7人の死亡を確認したとの報告を受けたことを明らかにし、「何の罪もない人々が犠牲となり、痛恨の極みだ」と語った。

 さらに、武装勢力サハラ砂漠にある天然ガス関連施設を襲撃してから5日たった現在も、依然として日本人3人の安否が判明していないと述べた。

 日本人や日本関連の施設への脅威が最近問題になっており、海外での邦人救出作戦における自衛隊の役割について、今回の事件をきっかけに包括的な議論が活発になる可能性が高い。

 小野寺五典防衛相は20日のフジテレビ番組の中で自衛隊による邦人救出についての質問に対して、現在は法的にかなり制限されているとの見解を示した。

「今回の(アルジェリア人質)事案で、どれだけのことができるかとなると、やはり国内の法の縛りが、かなり厳しい」と述べた。

 この発言は現在の自衛隊法を指したものだ。国外での戦闘活動を禁じた日本の平和憲法に立脚している同法は2006年に改正され、海外での事件に巻き込まれた邦人を救出するための自衛隊の役割が拡大したが、その活動には依然として制限がある。

 政府内で協議が重ねられた結果、小野寺防衛相は21日、政府専用機を使って邦人を首都アルジェから輸送するよう自衛隊に命令したことを発表した。このような海外の遠隔地から自衛隊が民間人の輸送を行うのは今回が初めてという。

 この人質事件が発生する数週間前の安倍政権発足以来、政府内では既に防衛力の拡大や自衛隊の海外活動に対する制限緩和に向けた動きが見られ始めている。中国や北朝鮮との関係が緊張するなか、安倍氏はより積極的な国家安全保障政策の策定を推進しようとしている。

 第2次世界大戦の終了から70年近くたつが、日本は米国の庇護の下に置かれ、国際紛争テロリズムといった問題から直接影響を受けずに済んできた。メディアの報道が正確ならば、今回の人質事件では日本人の犠牲者がもっとも多くなる可能性が高く、24人が死亡した2001年9月11日の米国同時テロに次ぐ惨事となりそうだ。

 ここ数カ月に間に日本関連で起きた襲撃事件は今回だけではない。昨年9月には、領有権をめぐる日中対立が引き金となり中国各地で反日デモが勃発、またインドの日系自動車メーカー工場では、待遇に不満な従業員が暴動を引き起こしている。

 日本企業の海外進出が増えるなか、現地で働く日本人や日本関連施設へのリスクが増加している。政府系金融機関国際協力銀行JBIC)の調査によれば、2013年3月期における日本の製造業の全収入のうち、海外での収入の占める比率は36%と予想され、10年前の28%から上昇している。

 危機管理を専門とする青森学院大学の大泉光一教授は、「日本人もわが身は自分で守るようにならなければならない。日本政府は立ち上がって治安の悪いところで活動する企業をサポートをすべき。自衛隊法の改正も必要だ」と述べる。

 今回のアルジェリアの事件に巻き込まれた日本人全員と多数の外国人が所属していた日揮は海外へ進出を進める日本企業の典型だ。同社は世界中で石油や天然ガス施設を建設し、連結売上高に占める海外比率は2012年3月期に72%と10年前の59%から拡大している。こうした事業の多くはイラク、ナイジェリア、ベネズエラなどアルジェリアと同様危険な国で行われている。

 海外に滞在・勤務する邦人数が増加するなか、その保護の強化を求め、2010年には当時野党だった自民党の小野寺防衛相ら国会議員が、救出作戦への自衛隊派遣についての規制緩和を盛り込んだ自衛隊法改正法案を提出した。同相ら与党議員は今週、国会でまだ取り上げられていなかった同法改正案の検討を要求している。

 過去数か月の間に安倍首相の率いる自民党は防衛強化のためいくつかの法改正を提案している。昨年12月に衆議院選挙て大勝する前、自衛隊の海外活動の制約を緩めるために平和憲法の改正を提案した。ナショナリスト的な同首相は、自衛隊を「国防軍」と改称して、名実ともに軍隊とすることも提案した。また10年以上ぶりに、防衛予算の増加を求めている。

 安倍首相は20日、中東の平和維持活動から帰国した自衛隊員に対し「近年、我が国周辺の安全保障環境は、一層厳しさを増している。私は、諸君の先頭に立ち、国民の生命・財産、我が国の領土・領海・領空を断固として守り抜く決意だ」と訓示した。今回の事件や東シナ海での中国との領有権をめぐる争いによって、自衛隊の強化が正当化されるとの考えを暗に示唆したのかもしれない。
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