「必ず安い」西友、月収700万円だった人愛好−ウォルマート戦略結実(1) (Bloomberg.co.jpから引用)

今はモノが安すぎる。それでもギリギリ企業はやって行けてるところはすごいが、その分人件費が削られていて、結局は、日本全体での購買力が下がっていく。そろそろこれから脱却するときが来たようだ。

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11月16日(ブルームバーグ):米ウォルマート傘下の西友で、1パック29円のもやしや1個49円のコロッケを買い求める宮川慶吉さん(65)は「ゴルフ会員権の商売でバブル時代は月収700万円の時もあり、給料袋が立った」と昔を振り返る。今では年金生活で、安い商品を求めて買い物をするのが日課になっている。

宮川さんのお気に入りは1缶88円の缶チューハイ。他の店よりも安く、外出帰りに必ず1缶買うという。リーマンショック後の余波から日本経済が回復しきれていない中、宮川さんのような安い物を買い求める消費者の姿は増えている。

コンサルティング会社ローランド・ベルガーの鬼頭孝幸パートナーは、以前の日本の消費者は「品質が良く、品ぞろえが豊富でないと買わないと言われていた」が、「デフレといわれる中で所得が下がってきて、価格指向が本格化してきた」と指摘する。こうした消費者の低価格指向の高まりが「毎日安売り」を掲げる西友に追い風になっている。

既存店売上高が回復していることから西友は今年3年ぶりに新規出店を再開した。川野泉執行役員によると、既存店売上高は90年代前半から減少傾向にあったが、11年までの直近3年間は前年超えが続いている。川野氏は13日の会見で、「今のところ4年目を更新できるような状況になっている」と自信をのぞかせた。

コンサルティング会社カート・サーモンの和田千弘日本代表は、西友の既存店売上高の伸びについて、「他のスーパーの既存店が下がっている中、非常に珍しい」として、「完全に回復してきているといってよい」との見方を示した。

根付いてきた「毎日安売り」

西友の特徴は、「毎日安売り」の価格戦略。広告費をはじめとした販管費などのコストを低く抑える分、店頭価格を引き下げるというもので、同社を買収したウォルマートが行っている「エブリデー・ロー・プライス(EDLP)」という手法だ。日によって安売りの商品を替えながらチラシで顧客を誘うという、国内小売業者で一般的にみられる手法と違って毎日、安い価格を提供する。

鬼頭氏は「エブリデー・ロー・プライス」というウォルマートの手法が、日本参入から「10年近く経ってようやく根付いてきた」という。背景には、国内の消費に対する「大きな変化がウォルマートの戦略に一致し始めている」ことがある。

総務省の家計調査によると、2人以上の勤労者世帯の定期収入(ボーナスなどを除く)の平均は11年に34万6911円と3年連続で低下した。これが消費者が財布のひもを引き締めている背景だ。

そうした中で西友の経営が好調な理由は、コストの見直しが進んだことが大きい。02年のウォルマート出資後も純損失が続いたが、04年には1600人の希望退職募集を発表。その後も追加の希望退職や、業務の効率化などに取り組んだ。またライバルの国内スーパーがチラシの特売で集客する中、西友は逆にチラシの頻度を減らし始めた。

増えた客足

金山亮執行役員によると、スーパー業界ではチラシを減らすと「はたしてお客さんが来てくれるのか」という不安があるが、西友ではこれらを通じて販管費削減を進め、低価格で商品を提供。その結果、いつでも価格の安い店という認識が顧客に浸透、09年前後から「客足が増えてきた」という。11年は08年比でマーケティング費用が45%減少した。

スタンダード&プアーズの吉村真木子主席アナリストは「日本がデフレからなかなか抜け出せない中、価格訴求力は明らかに消費者への訴求力になる。そこにいけば必ず安いというようなすりこみ効果も含めて、EDLPも一つの競争力」と語る。

毎日安く売るという手法は他社にも広がっている。ダイエー広報担当の山口愛一郎氏によると、同社は10年から一部店舗で開始し、今上期終了時点で37店舗で実施。浦和道場の店舗は、10年に導入後1年で黒字化したという。今年度中に傘下スーパーの約2割にあたる約60店舗まで拡大させる計画。また同様の手法を採用しているオーケー(東京・大田区)の12年3月期の営業収益は前期比2.3%増の2360億円で、広報担当の小川典子氏によると1989年3月期以来増収が続いている。

日本企業の買収を検討

ウォルマートが進出した中国は7−9月期の国内総生産(GDP)が前年同期比7.4%増と7四半期連続で鈍化しているため、出店ペースは当初の計画より鈍り、事業の拡大がなかなか進まない。インドでは、9月に外国企業の小売業への出資規制緩和が決定されるまで進出が阻まれていた。

それに比べて日本の事業環境は、ウォルマートにとり拡大を図るチャンスと映る。同社の国際事業の責任者ダグ・マクミロン氏は、5月のインタビューで、日本で小売企業の買収を検討している、と述べた。

ジャパンインベストの大和樹彦副調査部長は、買収について「官民とも反対する可能性があり実現可能性は低い」とした上で、中国地方が地盤のイズミは「候補として欲しいところに入るだろう」とみている。西友が比較的手薄な「西日本を押さえており、利益率が高い」ためだ。

地方中堅スーパーが候補

鬼頭氏は、買収先として「地方の中堅スーパーが一つの候補としてあり得る」と話す。地方スーパーは、北海道地盤のアークスが4月、岩手地盤のジョイスの完全子会社化を発表するなど再編が進んでおり、案件が浮上する可能性があるという。

節約指向の高まりで、ウォルマートに限らず衣料品のヘネス・アンド・モーリッツ(H&M )や家具大手イケアのような安売りの海外企業も恩恵を受ける。H&Mの日本での売上高は、8月までの9カ月間で16億9200万クローナ(約200億円)と前年同期比67%増加した。イケアは4月に新店を1店オープン。今後も立川と仙台に出店する予定だ。

一方、外資ライバルの仏カルフール は05年に日本から撤退。国内の出店が思うようにいかず、また日本人好みの品ぞろえができなかったことなどが響いた。03年に国内企業を買収した英テスコ も、同業他社との差別化ができず昨年撤退を決めている。

「安ければ安いほど」

日本での事業拡大を目指すウォルマートには、国内勢との値下げ競争が待ち受けている。国内小売り最大手のイオン は6月、1000品目の値下げを発表。ダイエーも17日から計3300品目の値下げを実施する。これに対して西友も年間で食品・日用品など2300品目の値下げを実施するなど競争は激しくなっている。

西友をよく利用するという宮川さんは、バブル期に週3日は飲み屋をはしごしていた。今は、「食ったり飲んだりしていくには安いところで買わないと」と、節約指向を強めている。

6人家族の家計をあずかる主婦の山田安希さん(29)も、食費や外食に掛ける毎月の費用が「2−3年前は10万円だったのが今は7万円」に減ったと話す。週に2、3回は西友に足を運ぶという山田さんの買い物のモットーは「安ければ安いほどいい」。こうした顧客が西友の好調さを支えている。

記事についての記者への問い合わせ先:東京 山口祐輝 yyamaguchi10@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Stephanie Wong swong139@bloomberg.net
更新日時: 2012/11/16 15:47 JST
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