米「財政の崖」は避けられない運命か―オバマ氏再選の場合はこうなる(WSJ日本版から引用)

アメリカが財政の崖に突入してもアメリカは無くならない。日本も真似して財政の崖を演出しているので、どうなることか。

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連邦議会は米経済を「財政の崖」に突入させてしまうのだろうか。ワシントンがあまりに機能不全に陥っているため、リセッション(景気後退)の再来という危機に国民をさらして、議会や大統領は大幅に増税し、全面的に財政支出を削減することになるのだろうか。

 おそらくそうだろう――。
これまでの状況はこうだ。2011年8月、議会とオバマ大統領は連邦予算のうち9000億ドル(約70兆円)を10年かけて削減することで合意した。

 さらに一段の措置を実施するよう自らを強いるため、議会は痛みを伴う全面的な財政支出削減を義務付ける法律を制定し、オバマ大統領はこれに署名した。社会保障費の削減や増税により、10年間で1兆2000億ドルの追加削減で合意に達しない場合、この法律は今年12月31日に発効する。ジョージ・W・ブッシュ前大統領により導入され、オバマ大統領により延長された減税策は同日に失効する。

 もう残り3カ月しかないが、議会は11月6日の大統領・議会選挙後まで招集されず、財政支出削減案の合意に向けた明らかな進展はない。

 ウォール街では、議会が選挙後に何らかの方法を見つけるだろうというのがもっぱらの見方だ。例えば赤字削減案(実体のあるものにしろ、何か仕掛けがあるにしろ)を打ち出すか、もしくはすべてを取り消すか――。2人の大統領候補と議会指導部ら、連邦準備制度理事会議長、それに企業経営者の一団は「財政の崖」を越えて行こうとするのは無責任だと言う。ホワイトハウスは「ひどく破壊的」だと表現した。

 しかし、民主党議員の中には「財政の崖」に――短期的に――踏み込むのもそれほど悪くないだろうし、来年、共和党と交渉をする際には自分たちの助けになると主張する向きもある。一方、共和党のなかにも同様に主張する声がある。(両方の主張が成立するわけはない。)今現在、駆け引きのための虚勢と本音を区別することは困難だ。

 では何が次に起こるのか。

仮にミット・ロムニー氏が大統領選で勝利すれば、議会は2013年半ばまですべてを延期する可能性がある。その間に予算を立て直すのだ。また仮にオバマ氏が再選されれば、その勝利が僅差か圧勝かで状況が変わる。また、共和党が上院を制するか、もしくは下院で多くの議席を失うかでも違ってくる。

 最新の世論調査が示唆する最も可能性ある選挙結果は、オバマ氏が勝利し、議会も現況に近い議席構成で終わることだ。そうなれば、オバマ政権の楽観主義者と、民主・共和両党の上院議員の賛同者らが描くシナリオはこうだ。

 選挙後すぐにオバマ大統領は新しい計画を打ち出す。これは特にメディケアに主眼を置いた社会保障費の削減に以前よりも強い意志を示すものだ。その後に超党派による新規の話し合いが続くことになる。

 話し合いの結果、次のことが決まる。1)小規模だがすでに両党の支持を得ているため、すぐに手がつけられる予算項目の支出削減策、2)2013年の特定の日までの増収額と社会保障費の削減額を決めた税制改革法案の策定と、同法案が上院で過半数の支持を得るために然(しか)るべき手続きを講じるよう関連する議会委員会へ指示すること、3)議会と大統領が前回とは違って納得できる譲歩案(おそらくすでに存在する超党派の赤字削減プランのうちの1つをベースとする)。

 だが、これらは下院の共和党議員が分裂して初めて実現できる。十分な数の共和党議員(おそらく下院議長のジョン・ベイナー氏に率いられた議員ら)が十分な数の民主党議員と合流し、これを支持しなければならない。残りの下院共和党議員(おそらく多数派院内総務のエリック・カンター氏に率いられた議員ら)は増税を嫌い、これに反対するだろう。民主党議員の一部も社会保障費を削り過ぎるとしてこれに反対するだろう。予想がつかないのは副大統領候補のポール・ライアン氏だ。ライアン氏は、オバマ氏と交渉する実行力あるリーダーとして出てくるだろうか、それともオバマ氏と戦う野党の強情なリーダーとして出てくるだろうか。

 もし仮に超党派による財政支出削減案の策定が不可能だった場合はどうなるか。そのときは議会が支出削減の強制執行を先延ばして減税措置を延長するか、もしくは「崖」に突入するかだ。

 議会は静かに、後者のシナリオの影響をやや軽減するため手を打ってきた。来年3月31日までの予算を通したため、12月31日で政府が立ち行かなくなる危険はなくなった。また、年末で失効することになっていた貧困家庭向け一時扶助プログラムの延長も決めた。

 仮に強制的な赤字削減策が発効すれば、オバマ政権の予算局はどの項目で年間予算を削減するかについて相当の柔軟性を手に入れることになる。仮に超党派の話し合いが続けば、最初の打撃は軽減されるだろう。同様に、財務長官は当面、源泉徴収額の変更を遅らせることができるため、労働者は増税をすぐに肌で感じなくて済む。直近の強制削減があった1991年当時、予算局のトップだったバリー・アンダーソン氏は「1、2カ月は、もしあったとしても、それほど大きな(予算への)影響はない」と指摘する。

 しかし、それは、民主、共和のにらみ合いが続くなかで、金融市場や世論がかき乱されないという仮定があってのことだ。そのような仮定は当てにならない。

 仮に12月まで協議がまとまらなければ、市場や世論の反発が急激に強まり、議会や再選された大統領としてもクリスマス前に「崖」の回避に向けて歩み寄らざるを得なくなるかもしれない。

記者: David Wessel
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