財政健全化に向けて消費増税に踏み切る日本(WSJ日本版から引用)

年金の支給年齢を早急に70歳以上に上げ、支給額の減額も検討する。支出を抑えない限り、増税をしても無駄であろう。

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【東京】先進国の中でも最悪の財政赤字を抱える日本は10日、2015年までに消費税を倍にする法案を成立させ、財政健全化に向けてここ数年にない大きな一歩を踏み出した。

激しい議論の末に可決した増税案は、政府借入金の抑制や、国民に何年も分不相応な生活を許してきた財政政策の修正に苦慮する先進民主主義国家が、政府借入金の削減を始められることを示している。

 しかし同時に、今回の法案は財政再建実現の難しさも示している。増税が行われても、日本の歳出は歳入を大きく上回ることが見込まれており、予算不足を補うためにはさらなる増税社会福祉の削減が必要になるとアナリストたちは指摘する。

 10日に最終的な議会承認を得た増税法案は、日本国債の発行ペースを遅らせることになる。しかし、新たな増収分は、急増している高齢者への年金給付費の増額ですぐに使い果たされてしまうだろう。国会議員たちは、政治的に難しいと目されている給付を抑制するなどの案については審議を見送った。

 日本国債米国債フランス国債に先駆けてトリプルA を失った1998年以降で、日本政府が財政再建に向けて大きな努力をしたのは、今回の消費増税が2度目である。格下げを受けて実施された公共事業費の大幅な削減で日本の財政は一時的に改善したが、債務はすぐに急増に転じた。

 経済協力開発機構OECD)によると、日本の債務残高は同国の国内総生産GDP)の214%に相当するという。

 日本国債の市場は今のところ、ユーロ圏が直面しているような困難な状況には追い込まれていない。しかし、欧州危機の波及に対する不安が広がったことや、格付け会社からさらなる格下げを警告されたこともあり、日本の政治家たちはいつもの対決姿勢に封印をした。日本の政治はずっと麻痺状態をつづけてきており、長期的に低迷する経済の活性化や福島第1原発事故後の深刻な電力不足を受けての新たなエネルギー政策の策定といった難題への真剣な取り組みもはばんできている。

  しかしこの夏、二大野党は増税法案を成立させるために与党民主党と連携し、野田佳彦首相はこれに政治生命を賭した。

国民の増税に対する反感もあり、野田首相の支持率は低迷しており、多くの世論調査で20%台前半と出ている。消費増税に反対して民主党を離党した議員も大勢いた。野田首相は8日、最後の障害を乗り越えるため、「近いうち」の衆議院解散と総選挙の実施の約束を強いられた。これにより野田首相の在任期間は1年ほどで終わりを迎える可能性が高まった。

先進7カ国のリーダーたちがそれぞれ懸命に債務の抑制に取り組むなか、野田首相は債務の拡大を抑制する法案の通過という賭けにとりあえず成功した。米国では、オバマ大統領と議会が年末までに債務削減計画をまとめる必要がある。さもないと、数十億ドルの歳出削減と増税が自動的に発動する「財政の崖」から転げ落ちることになるだろう。 緊縮策を課すことで国債の負担を軽減しようとする欧州のやり方は、域内の各国政府に大打撃を与えてきた。フランス、ギリシャ、スペイン、ポルトガルアイルランド政権政党は選挙で敗れて野党に転落し、イタリアでは首相が交代している。

日本で成立した法案は、財政の審判の日をどうにか遅らせたにすぎない。その増税により毎年の歳入が10兆円ほど増えると期待されているが、年間の総歳出も3年後には10兆9000億円増えると予想されており、増収分を相殺するとみられている。

日本政府はそれに続く 5年間の歳出が、年間の税収増加の3倍のペースで伸びると予想している。急速な人口の高齢化が大きな負担になるためである。

1995年、日本の人口に占める65歳以上の人の割合は14%で、国家予算に占める社会保障関連費用の割合は17%だった。それが2010年には高齢者の割合が23%、社会保障関連費用の割合は

29.5%にまで拡大してしまった。社会保障制度の抜本改革を行わない限り、日本の人口動態は確実に財政をのみ込んでしまうだろう。

米ワシントンDCにある戦略国際問題研究所でグローバル・エイジング・イニシアチブの責任者を務めるリチャード・ジャクソン氏はこう指摘する。「日本は新たな経済の時代の最先端にいるのかもしれない。それはその他の高齢化が急速に進む先進諸国もすぐに突入することになる長期的な経済停滞の時代である」

増加している高齢者への社会保障費の負担は、経済的にますます困窮している日本の若い世代にのしかかっている。高齢者への給付金、及びその資金源である債務の返済費用に充てられる歳出が着実に増えている。その一方で、教育や科学研究への歳出は減少している。

20年も続いた景気低迷の対応措置として、企業は若い人の雇用、賃金、福利厚生を減らしてきた。そのせいで低い給与水準の非正規雇用の仕事で生計を立てざるを得ない20代と30代の若者の多くはこうした状況に苛立ちを覚えている。最近、テレビのあるニュース番組は、60代と
70代の人たちを日本に次に押し寄せてくる問題から「逃げ切った世代」と表現していた。40代と50代の人々は「逃げ切ろうと必死な世代」、20代と30代は「逃げ切れない世代」だというのである。

年金は全額支払われて当然だと多くの退職者は感じている。名古屋に住む瀧良夫さんは、輸出主導で日本経済が飛躍的な成長を遂げた1960年代の終わりに高校を卒業し、トヨタ自動車の関連会社に就職した。瀧さんは20年間以上そこに勤務した後、
1990年代半ばに独立開業し、今年売却するまで半導体製造装置の部品をつくる小さな工場を経営してきた。

瀧さん夫妻は40年以上にわたって年金保険料を納付してきた。現在63歳で引退生活を送る瀧さんは毎月12万円のほどの年金を受け取っている。

自分にはその資格があると瀧さんは感じている。「この20-30年、毎日午前様で仕事をする日々が続いていた。今は、以前は時間がなくてできなかった、色々なことをやってみたい。ゴルフをしたり、川釣りに行ったり、畑でブドウやメロンをつくったりしてみたい」

瀧さんの24歳の息子、大学院生の勇也さんはそれが自分に跳ね返ってくることを懸念している。「40年後に、僕たちの番が来たとき、支払う年金が何も残っていないのではないかと心配する。このまま放置しておくと、じりひんで、どんどん苦しくなっていくのではないかと思う」

記者: Yuka Hayashi
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