【社説】バーナンキ議長のインフレ・パラドックス(WSJ日本版から引用)

米国債の買い手が、FRBから日本に変わってきているのか。復興資金が米国債へ還流している可能性がある。ヒラリー国務長官米国債のセールスのために先日来たという話もある。
世界不景気合戦も行き着く所までいく前に、打ち上げ花火が上がるのかもしれない。5月の日本は線香花火程度かもしれないが。

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26日から連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれる。われわれは、お祝いを言うべきかもしれない。FOMCは昨年9月、物価がもっと上がって欲しいと言い、それが実現したのだから。連邦準備理事会(FRB)はインフレは景気回復にプラスに働くと言ってきた。だが、今は、インフレが起きたことによって景気回復が損なわれないかどうかが問題になっている。
 これが異常に緩和的な金融政策のパラドックスだ。この問題が今ほど明らかなときはない。FRBは世界を流動性で溢れさせ、株式やそれ以外の資産価格を上昇させた。デフレのリスクを解消し(もし、そのようなリスクが本当にあったなら)、景気の二番底を回避した。金融業界と米政府は大喜びだ。
 一方、ドルの洪水は国際商品価格のバブルを発生させ、ドルに自国通貨を連動させている国々にインフレを起こした。そして投資家に非ドル建て資産を探すよう仕向けた。だが、こうした資産への投資はリスクが高く失敗につながることが多い。こうしたことはすべて、実質所得の成長を妨げ、消費者信頼感を損ない、回復の持続力への懸念を浮き彫りにした。米国の中流階級は豊かになったとは感じていない。
 これを、バーナンキ議長の金融政策バスケットに、皆の景気拡大期待を全部突っ込んだことの対価と呼ぼう。
 同議長はいまだに明るいサイドしかみていない。2003年から2005年にかけて金融緩和期と同様だ。同議長は今月、「インフレ率の上昇は一時的なものだと考えている」と語った。上昇の原因は「世界的な需給関係に基づく原油と食品価格の一時的な上昇が原因」であると分析した。FRBの賢人たちは「食品とエネルギーを除く「コア」インフレ率の上昇は緩やかだとした。また原油問題は近く解消されるだろうとの見方を示した。米国以外のインフレについては、関知するところでないと述べた。
 しかし、これはわれわれの関知するところであることが明らかになりつつある。原材料や部品価格の上昇は米国の物価に影響を及ぼし始めている。米日用品大手キンバリークラークは25日、コストの上昇によって利益が急減したとして北米で販売される大半の製品の価格を引き上げた。クリネックスやハギーズの価格上昇は「コア」インフレの上昇にはならないのだろうか。
 FRBが昨年、量的緩和第2弾(QE2)を打ち出して以降の生産者価格の上昇率をみてみよう。マスコミはFRBがいつQE2を止めるかを忙しく議論している。確かに重要な問題だ。しかしもっと大きな問題は、景気浮揚のけん引役として米国がFRBに頼りすぎていることだ。財政政策による景気刺激が失敗したため、著名なケインズ主義の経済学者らはFRBにもっと景気刺激をやらせようとしている。彼らはオバマノミクス(オバマ大統領の経済学)を救うのはバーナンキ議長だと考えているようだ。
 しかしFRBはすでに2年4カ月も政策金利をゼロ近辺に置いている。住宅ローン担保証券国債の購入額は過去に例のない金額に膨らみ、FRBのバランスシートを2兆7000億ドルに拡大させた。米国は近年、こんな緩みきった金融政策を取ったことはない。こんな政策を正当化できるのは金融危機の真っただ中だけだ。しかし今は2年近く回復基調にある。拡大スピードは遅いが拡大はしている。
 われわれも成長を加速したい。しかし、そのためには財政政策などの改革が必要だ。またそれによって過去4年間の政策成果を反転させることになりかねない。大幅な歳出削減、税制改革、自由貿易を進め、規制強化は止めなければならない。差し押さえの抑制や銀行いじめも止め、「オバマケア(医療保険制度改革)」の、雇用を削減しかねない増税や、さまざまな義務の強化などを止めさせなければならない。
 一方、FRBがドルをじゃぶじゃぶにするほど、経済へ悪影響を及ぼす懸念は大きくなる。わたしには、どんな害悪が起きるかを予知する能力はないが、危険の兆しはいたるところにある。中国ではトラック運送業者がインフレによる運賃の引き上げを要求してストを実行している。中東では食品価格の上昇が不公平感を高め政治的抗議運動につながっている。
 世界では、投資家が金、銀、アイオワの農地、新興国の株式などに投資をしている。ドル資産の価値低下へのヘッジだ。国際商品価格の上昇から利益を得ようとしている者もいる。このドルの洪水は永遠に続くことはありえない。もし、それが止まったとき、その悪影響は厳しいものになろう。
バーナンキ議長は、インフレは一時的だと自信を持っている。同議長が正しいことを期待する。しかし、われわれは2007年5月に議長が「経済の基礎的条件は住宅需要を下支えするはずだ」、「サブプライムローン市場の問題の住宅市場全般への影響は限定的だ」と自信を持って言っていたことを覚えている。それが実際どうなったかも。
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